<自然環境論講座スタッフ研究内容紹介>

田中 成典 (教授)

Shigenori Tanaka
(E-mail address: tanaka2@kobe−u.ac.jp)



専門: 理論生命科学、計算構造生物学

研究テーマ: コンピュータによる生命機能の分子シミュレーション

研究内容の概説:

   ここ数年のゲノム/プロテオーム科学の進展、インターネット上の膨大なデータ ベースに基づくバイオインフォマティクスの展開、そしてインシリコ(In Silico: コンピュータによる)シミュレーション技術の進歩などによって「コンピュータを用 いた分子レベルからのボトムアップ的アプローチによる生命機能の再構築」というこ とが徐々に現実味を帯びてきた。それは即ち、生体分子に対する「第一原理的」計算 機シミュレーションが、従来用いられてきたQSAR(定量的構造活性相関)などの半経 験的なアプローチ等の助けも借りつつ、医療・薬学・環境などの現実的な問題の解決 へも応用されることを意味する。我々は2004年から、科学技術振興機構(JST)の 戦略的創造研究推進事業(CREST)の一環として「フラグメント分子軌道法による 生体分子計算システムの開発」というプロジェクトを始め、こうした状況を踏まえ た生体分子シミュレーション技術の開発に取り組んできた。 現在、この分野は、コンピュータ技術 そのものの急速な進歩だけではなく、計算手法自体に関しても、原子レベルあるいは 粗視化レベルのシミュレーションによる蛋白質の立体構造予測、構造の決まった生体 高分子系に対する電子状態計算、細胞内でのシグナル伝達パスウェイや生化学反応 ネットワークのシミュレーションなどにおいて次々と新たなアプローチが開発されて 活況を呈している。我々のグループでも方法論の開発に関して、

  1. フラグメント分子軌道(FMO)法等に基づく生体高分子電子状態計算手法の開 発
  2. 量子モンテカルロ(QMC)法などによる電子相関効果の精密な記述
  3. 巨大な複合系の長時間ダイナミクスを記述するための粗視化シミュレーション 技術の開発
などに取り組んでおり、これらの計算技術に基づき、疾患や化学物質影響、薬物効果 などの理解にとって重要な役割を演じるエストロゲンレセプターなどの核内受容体や シトクロームP450、あるいは生体高分子を利用したナノデバイス等に対する理論解析 を進めている。

 神戸大学には2004年5月に着任したが、今後、研究室を立ち上げ、運営するにあ たって、発達科学部内の他の研究室(自然科学系だけでなく人文社会系も含む)との 連携を深め、医療・薬学・環境等の諸問題に(コンピュータを活用して)様々な角度 から(必ずしも従来のアプローチにとらわれない)「実際の役に立つ」研究を推進し ていきたいと考えており、自由な発想と意欲に溢れた若い人たちの積極的なチャレン ジを期待している。


研究室のホームページ