<自然環境論コーススタッフ研究内容紹介>

安達 (山田) 卓 (准教授)

Takashi Adachi-Yamada
(E-mail address:  yamadach@kobe−u.ac.jp)



専門: 発生遺伝学・分子細胞生物学

研究テーマ: ショウジョウバエを用いた増殖・分化・細胞死制御に関する研究

本研究室では、モデル生物のひとつショウジョウバエを用いて、多細胞体制が 担う細胞増殖、細胞分化、細胞死の各機能が相互に影響し合う組織的ネットワーク を解き明かすことを目標としています。

ショウジョウバエが生来のメリットを生かされて、多細胞生物を代表する モデル系として研究されてきたことについては、改めて記述するまでもありません。 もちろんハエ以外にも多くのモデル生物が開発されてきたので、 例えば今から10年ほど前には「ハエもあと5年の命か!」と危ぶまれる声も ありました。しかし10年経過して改めて現状を眺めてみると、遺伝子構造・機能の 進化的保存性は揺るぎないものとなり、ハエ固有の解析技術の応用性・利便性は 多方面に展開され、さらに各種データの集積量が桁外れに上昇したことによって、 今や他の生物が決して模倣できない特別な地位に上がってしまったかのようです。 特にポストゲノム時代において求められる本格的な機能研究 (例えば「多くの遺伝子・細胞・組織間の相互作用から成り立つ高次機能の総体を 多細胞体制の場において解明する」といったテーマ)においては、もはやこれに 勝る材料は出てこないのでは・・・、と言っても過言ではないでしょう。

例えば、細胞が外部から毒物の作用を受けた時、その細胞は分化方向など 発生運命が変わってしまうかもしれませんが、応答はそれにとどまらず付随的な 増殖速度の変化が生じ、さらに時間をおいて内外から細胞死がひき起こされ、 同時に空いた空間を埋める補正的増殖が導かれる・・・とドミノを倒すように 様々な影響が連鎖してゆくのが、生体内の組織が見せる特徴です。しかもその 連鎖は、同じ刺激に対する応答であったとしても、その時その細胞がたまたま おかれていた様々な環境の違い(context)によって、何へつながってゆくのかが ダイナミックに変化します。そうした複雑な応答のネットワークは、まだ山の 一端が明らかにされているに過ぎませんが、この山を様々な場所から掘り返し、 何がどうつながっているのかを観て生理的意義を探る・・・というのが目下の 関心事です。

以下、本コース学生向けに一言:

学生諸氏にとって、研究を自らの意義あるものとしてゆくためには、 初めは様々な基礎を地道に学ぶ修行期間が必要です。しかし、苦難を忍ぶ屈強な 精神力に物をいわせて進歩できる人は普通かなり少数であって、多くの場合、 まず直感的にどれだけ研究に愛着を抱けているのか?が、これから歩を進めて ゆけるかどうかの最初の分かれ目になる!ように私は見ています。 熟練者より、むしろ初心者のうちこそ、即効的に感じられる喜びを見出せないと 苦難の道からたやすく落伍します。逆に親和性があれば苦痛はそれほどでもなく、 いつのまにか成長できるものです。皆さんにとってこの研究室の居心地はいかが でしたか? 「ハエ学」をするのに「ハエが苦」ではとてもやっていけません!