日時:2008年8月29日(金)15:10−16:40
場所:発達科学部 G302号室 (G棟3階)
タンパク質は細胞内で"馬車馬"と例えられるほどに幅広い仕事をこなしている。 タンパク質は、酵素反応を行ったり、物質を輸送したり、 ウイルス粒子の外殻を構成したり、膜を横切り各種チャネルを形成したり、 DNAからRNAへの情報を伝達するなど、本当に様々な役割を担っている。 タンパク質の担う役割の重要性が認められているからこそ、 これまで多くの人々が多大な努力をタンパク質の機能の解明に費やしてきたのだと思う。
タンパク質機能を解明するための主な戦略は、結合する相手を識別することである。 これは、細胞の中で行われる膨大な数の生命維持反応のほとんどを タンパク質相互作用が担っているためである。 今後、タンパク質相互作用の複雑なネットワークが明らかになることで、 細胞間のコミュニケーションや相互作用ネットワーク間の結合性、 および、タンパク質相互作用の背後にあるダイナミックな法則を 互いに関連づけることが可能になると期待されている。これらの予測は、 反応経路についての知見や、そのトポロジー、経路長やその動態、 薬剤の副作用の予測に有用な情報をもたらすかも知れず、 分子・細胞生物学にとっても、創薬にとっても重要な試みである。
タンパク質の結合する相手を識別するためには、 二つのタンパク質間の相互作用を定量的に評価する タンパク質相互作用親和性の問題を解けばよい。 この問題に対するアプローチは様々だが、 我々は構造既知のタンパク質同士の相互作用を解析し、 その親和性を予測するシステムThe Affinity Evaluation and Prediction system (AEP) を開発した。AEPは、いくつかの統計処理を組み合わせたフィルタを用いて 相互作用評価を実行し、多数の演算コアを持つ大規模計算機上で動作し、 タンパク質間相互作用を高速かつ大量に評価することができる。 例えば、CBRC BlueProtein (IBM BlueGene / 8192 cores, 2TB memory)では、 一日に10000ペア以上の評価を行うことが可能である。この高速性能は、 研究グループの一人である蓬来らが開発した高速畳み込み演算ライブラリ CONV3Dによるものである。また、AEPの予測性能は、 ROC解析により有病率5%の時に感度65.0%、特異度は80.8%であり、 正診率は80.0%であった。講演では、AEPによって得られたタンパク質ペアの特性や、 AEPの予測システムとしての性能についても触れながら、AEPの独自の統計処理、 およびシステム構成からタンパク質相互作用解析の実際について述べる予定である。
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□ 連絡先:田中成典 (発達科学部 自然環境論コース)
電子メール:tanaka2@kobe−u.ac.jp