第166回自然環境論セミナー
フラグメント分子軌道法による生体分子、凝集系の扱い
望月祐志 氏
(立教大学理学部化学科)
日時:2007年1月12日(金)15時10分−16時40分
場所:発達科学部 G302号室 (G棟3階)
フラグメント分子軌道法(FMO)は、タンパク質や凝集系といった巨大分子系を経験的な
パラメータを導入せずに量子論的に扱うことの出来る手法の一つです。私たちは、オリ
ジナルのプログラムシステムABINIT-MPの中にFMOに基づく各種の計算手法を実装し、
同時に実証的な大規模応用計算を手がけてきています。このセミナーでは、
FMOの方法論を概説した後、具体的な応用事例を紹介し、さらに今後の発展の方向性に
ついても触れたいと思います。
事例1: Chem.Phys.Lett. 427 (2006) 159
相対論効果をモデル内殻ポテンシャル(MCP)によって導入し、白金を含む抗がん剤
であるシスプラチンがDNAに結合した複合体を約千個の水分子で露に水和させた系を
電子相関を含めたFMO-MP2により電子密度を含めて計算することに世界で初めて成功
しました。この結果、中心の白金原子の電子状態は相関と水和の影響を強く受ける
ことが示されました。なお、実行時間は田中研究室のOpteron64CPU機上で8.2日ですので、
実用性の高さも十分です。
事例2: Chem.Phys.Lett. 433 (2007) 360
DsRedは珊瑚由来の赤色蛍光タンパク質で、中心部に色素部(クロモフォア)を持つ
β樽型の構造を持っていて、実験による励起エネルギーと発光エネルギー極大は
2.22eVと2.13eVです。この系に対し、クロモフォアに相関を含めた励起状態計算を
行うMLFMO-CIS(D)法を6-31G*基底で適用して各々2.28eVと2.21eVを得ました
(残基数は220)。Stokesシフトまで含めた実験値との対応はたいへん良好で、
FMO法が光応答タンパク質を定量的に記述出来ることを示しました。
※ 生体系のシミュレーションにご関心をお持ちの方はぜひ奮ってご参加ください.
なお、(フラグメント)分子軌道法のより基礎的・入門的な部分については、
3限の「現代物理化学特論2」特別講義(同じ会場)の中でも紹介されますので、
こちらも合わせてご参加されるのもよいかと思います。
※ 過去の自然環境論セミナーの記録は
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その他の案内は
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□ 世話人: 田中 成典(発達科学部 人間環境学科)
電子メール:tanaka2@kobe−u.ac.jp
voice: 078-803-7752