第165回自然環境論セミナー 
行動意思決定論−意思決定の心理科学−
竹村和久 氏
(早稲田大学文学学術院・早稲田大学理工総合研究所)

日時:2006年12月27日(水)16時00分−17時00分
場所:発達科学部 大会議室  (A棟2階)

本発表では、意思決定現象の研究パラダイムと行動意思決定論(behavioral decision theory)について概説を行い、最近の我々の研究の知見を紹介する。 行動意思決定論というのは、簡単に述べると、人間の意思決定行動に関する心 理学的知見を説明するための記述的な理論の総称である。伝統的な経済学では、 人間の意思決定は自己利益追及に関して合理的で、時間と場面状況を通じ常に 一定であるという大前提の上に、さまざまな理論構築や実証研究が行われてき た。しかし、社会的状況における人間の意思決定は、必ずしも経済合理性を持 つとは限らず、また一貫していないことがこれまでの研究でわかっている。た とえば、経済学における効用理論に基づいて経済政策を行おうとしても、消費 者の意思決定の状況依存性を十分説明出来ず、対応に失敗することがある。ま た、個人の日常生活の意思決定が社会的環境に依存してなされるために、社会 的予測が間違ったり、無効になったりすることがある。

私達は、このような意思決定の特徴を、人間を含む動物に関する行動分析学 の視点と行動意思決定論の視点を統合しながら把握することを目標としている。 また、社会的状況における意思決定の微視的過程を種々の基礎心理実験と調査 を通じて解明することを続けている。そしてその状況依存性を人間行動に関す る理論的観点から説明し、予測可能な心理計量モデル、その数理心理モデルを 構成し、さらに、この数理心理モデルを実証的観点から検討しようとしている。

まず本発表では、意思決定研究にほぼ共通するとみられる意思決定現象の認 識枠組を示し、確実性下、リスク下、不確実性下の意思決定がどのように把握 できるのかということを説明する。つぎに、意思決定研究の中で行動意思決定 論がどのような位置づけにあり、どのような歴史的経緯を経て発展したかを論 じる。

次に、行動意思決定論の研究の知見であるプロスペクト理論(prospect theory)について紹介し、プロスペクト理論の問題を改善するために藤井聡氏 (東京工業大学)らと行っている状況依存焦点モデルの研究について紹介する。 また、意思決定の過程追跡技法や人間の判断や意思決定の潜在認知の問題を扱 うための画像解析を用いた描画解釈の方法なども紹介する。

※ 多数の学生・教員・一般の皆様のご来聴をお待ちしております.
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□ 世話人:蛯名邦禎 (発達科学部 人間環境学科)
  電子メール:ebina@kobe−u.ac.jp
  voice: 078-803-7754