第162回自然環境論セミナー 

星間の化学と物質進化
川口 建太郎 氏
(岡山大学大学院・理・教授)

日時:2006年9月12日(火)15時−17時
場所:発達科学部 B208講義室  (B棟2階)

  1. はじめに
     星間空間で存在が確認されている分子は140種以上になる。それらの検出 には分子の回転スペクトルを観測する電波望遠鏡の果たした役割は大きい。電 波の観測は、星間空間の中でも比較的密度の高い分子雲(星の光をさえぎる意 味で雲と呼ばれる)でなされている。そこでは、最も多い水素分子が密度104- 105 個/cm3で存在し、固体微粒子(星間塵―ダスト)も光を遮るほどに存在して いる。星間の化学と物質進化について電波観測、光学観測、実験に基づいて紹 介する。

  2. 低密度雲における未同定スペクトル線
    暗黒星雲より密度が低く、可視光がある程度透過できる低密度の雲にも、様々 な物質が存在している。そこの密度は水素原子換算で N(H) 1- 100 /cm3程 で、水素分子と原子の密度がほぼ等しく[ H2 ] [ H ]である。可視光の観測で既 に、分子種 C2, C3, CH, CH+, CN, CO, NH が検出され、赤外観測によりH3+が 検出されている。低密度の雲ではまた 未同定スペクトル線: Diffuse interstellar bands (DIBs)が多数報告されている。その正体を明らかにすることは宇宙物理、 宇宙化学の研究者、実験室での分光に関係している者にとって長い間の懸案で ある。最近の光学望遠鏡での観測について報告する。

  3. 同位体存在量比とオルソ・パラ比から探る星間化学
    重水素DとHの宇宙存在量比は[D]/[H]=10-5であるが、低温での化学反応では 重い元素を含む化合物がより生成しやすい。これは分子のゼロ点エネルギーの差 で説明されていて、ND3, HD2+などが検出されている。ND3はNH3の8x10-4までも 濃縮されている。Dに比べると濃縮の割合は小さいが13Cでも濃縮も観測されている。 水素分子は星間ダスト上で生成すると考えられるが、低温の雲ではオルソ状態 とパラ状態に存在する水素分子が必ずしも統計的重率(3:1)になっていない。これは オルソ準位(J=1)のエネルギーがパラ準位(J=0)のものより約180 Kに相当する分 だけ高いので、星間ダスト上のような低温状態ではパラ準位に相対的に多く分布し ていると考えられる。我々はこの非平衡な分布が伝播することを環状C3H2の観測で 見出した。同じようにC2v対称を示すH2CO, H2CSなどでもオルソ・パラ比は天体によ って異なる値をとっている。このような片寄った分布がアミノ酸など大きな分子の生成 にいかに反映するのか興味ある問題である。

  4. 星間アミノ酸の探査
    アミノ酸を構成するNH2, COOH基を含む多くの化合物が星間空間で検出されて いるので、アミノ酸も存在していると考えられる。実際、星間空間の塵を起源とする 隕石の中にはアミノ酸が見つかっている。電波望遠鏡での探査は、最も簡単なアミ ノ酸グリシンに対してなされ、2003年検出したと報告されたが、2005年そ の検出を疑問視する報告が発表された。我々はD体、L体を持つものでは最も 小さなアミノ酸であるアラニンの星間空間での検出を目指し、野辺山宇宙電波観測所 45m鏡を用いて観測している。関連する実験室分光とともに報告する。

  5. 実験室における解離性再結合反応
    星間化学反応の最初に現れる重要な分子イオンH3+の低密度雲における存在量 が予想より多く話題になっている。イオンと電子の解離性再結合反応の速度定数を 求める実験について報告する。



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□ 世話人: 中川 和道 (発達科学部 自然環境論コース)
  電子メール: nakagawa@kobe−u.ac.jp