第149回自然環境論セミナー 

体内時計と生命科学

上田 泰己 氏
(理化学研究所 神戸研究所 発生・再生科学総合研究センター)

日時:2006年4月20日(木)15時30分−17時00分
場所:発達科学部 G302  (G棟3階)

 腕時計を分解してみると正確に時を刻むのが如何に複雑な過程かが分かる。 動力源によって発生した力が、調速部品によって一定速度の動きへと変換され、 いくつもの歯車を経て最終的に秒針、分針、時針の動きとなって表示される。 体内の時計も同様に複雑で、遺伝子が形成する複雑なネットワークによって発振し、 様々な生理現象のリズムを調節している。しかし腕時計と大きく異なるのは、 体内時計には明示的な表示機能や製作のための設計図がないということである。

 体内時計に明示的な機能がない為、ある人の体内時計が今何時なのかを 客観的に知るのはなかなか難しく、体内時計に合わせた薬物投与を目指す 「時間治療」には大きな障壁があった。腕時計に相当するようなものを つくれないだろうか?250年以上も前のリンネの花時計にヒントを得て、 遺伝子時計とでもいえるような分子の時刻表を作成した。セミナーでは、 この分子時刻表を用いて正確に体内時刻を測定する方法やリズム障害を 診断する方法について紹介する。この手法により医師が患者の体内時計に合わせて、 最も有効で最も副作用の少ないタイミングで薬剤を投与するといった応用が 将来可能となるかもしれない。

 腕時計と違って体内時計は全体の設計図が最初から存在するわけではない為、 体内時計を構成する部品がいったい何個あるのか、各部品の役割は何なのかが、 わからない。そもそも体内時計が体内の時を刻む原理は何なのかすら不明である。 また体内時計がおかしくなったときにどのように修理すればよいかについて、 マニュアルがあるわけでもない。セミナーでは、このような状況の中で、 部品を探し出し、各部品の特徴を測り、全体を制御しながら、時には 一から組み立てることによって生命現象の理解を試みている様子を紹介する。 このような生命科学の営みは、おそらく体内時計の理解に限ったことではなく 他の様々な生命現象や疾患についても当てはまるのかもしれない。

※ 多数の学生・教官・一般の皆様のご来聴をお待ちしております.
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□ 世話人:田中成典 (発達科学部 自然環境論講座)
        e-mail: tanaka2@kobe-u.ac.jp
        TEL: 078-803-7752