第114回自然環境論セミナー

生態系の規模を考慮した水圏生態系の管理

加藤 元海 氏 
(日本学術振興会特別研究員/京都大学生態学研究センター)

日時:2005年1月22日(土) 10時30分から11時30分
場所:神戸大学発達科学部 大会議室 (A棟2階A220)

概要

 世界中の水圏生態系が直面する深刻な環境問題の一つは、近年の人間活動の急激な 増加による過剰な栄養塩の供給に起因する富栄養化です。一般的によく知られている 例としては、湖沼におけるアオコの大発生があります。しかし、過剰な栄養塩が供給 されているにもかかわらず、富栄養化が緩衝される場合があります。湖沼生態系の場 合、その条件は、湖沼の規模や沿岸帯植物群落の多寡に依存することが明らかになり つつあります。沿岸帯植物群落は、根を張ることにより湖底を安定化させ栄養塩の再 循環を抑制する効果をもっています。したがって、湖沼の富栄養化で沖帯の水質の鍵 を握っているのが植物の生える沿岸帯であり、沖帯−沿岸帯相互作用が重要となりま す。しかし、この相互作用の強さは湖沼形態(大きさ、深さ)によって異なります。 今回は、実際に野外観測や実験で得られたデータを組み込んだ数理モデルを用いて、 富栄養化しやすい湖沼の特徴を明らかにした研究を紹介します。モデル解析の結果、 中程度の平均水深を持つ湖沼において不連続的富栄養化の可能性がもっとも高いこと を明らかになりました。中規模の湖沼は比較的利用価値が高くしかも我々の身近に存 在する湖であり、そのような湖沼に対してこの研究結果はさらに注意深い管理の必要 性を示唆しています。

 河川においても、その生態系を管理する上で規模を考慮する必要があると考えられ ます。河川の場合、河自体の大きさに加えて、同一河川内でも本流・支流・山間渓流 といった様々な規模が存在します。規模が異なると、栄養塩希釈効果や岸辺に生える 植物群落の水質浄化の効果が変わると予測されます。栄養塩問題のほかにも、生物が 水中生活を行う上で欠かせない酸素の問題も考えられます。富栄養化や河川改修など の影響により溶存酸素は変化し、水生生物の分布を制限ことがあります。私がこれま で河川において行った、酸素条件と水生昆虫の分布に関する研究を簡単に紹介した 後、人為的な影響を受けやすい河川の特徴を特定するといった近い将来研究テーマと して関心をもっていることについても言及する予定です。

 水圏生態系は、湖沼と河川が繋がっているのが特徴です。最後に、湖沼と河川の規 模を考慮した研究を基に、湖沼と河川が相互作用する「流域」を管理するための研究 の展望について話したいと思います。

世話人: 寺門 靖高 (terakado@kobe-u.ac.jp)

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