第112回自然環境論セミナー

情報計算から生命、環境問題にどのように取り組むか?

神沼 二眞 教授
(広島大学大学院理学研究科 量子生命科学プロジェクト研究センター)

日時:2004年10月27日(水) 15時20分から16時50分
場所:発達科学部 G302 (G棟3階)

概要

 1940年代にコンピュータが誕生してから、計算と情報に関連した多くの学問領 域が生まれ、伝統的な自然科学の研究スタイルが革新された。その影響は、関連する 素材開発、医学、薬学、毒性学、農学、環境科学などにまで及んでいる。私自身、2 0代の理論物理学とパターン認識から出発して60歳の定年退官にいたるまで、医 学、医療、生物学、化学物質の安全性、医薬品、食品、環境問題などに関する研究分 野で情報計算の立場から仕事をしてきた。また、その間に、情報計算化学生物学会 (の前身である計算機と化学・生物学の会)を1981年に立ち上げた。

この学会は、望みの物質をデザインすること、化学物質の生体への影響をしらべるこ と、という課題に情報計算技法を援用することに関する学術情報交換をめざしてい る。この会はComputational Chemistry, Chemical Informatics, Bioinformaticsに 関係しているだけでなく、現在話題になっているNanotechnology, Biotechnology, ITにも関係した分野を関心領域としている。

 こうしたさまざまな分野である程度仕事ができた要因を考えてみると、(1)出発 点となった物理学は化学の基礎であり、化学は現代生物学の基礎になっていること と、(2)パターン認識を含む情報学が人間の思考(思惟)の方法論として、Meta Science/Technologyの性質を有していることに帰着できるように思われる。実際に情 報計算技法は、物理学だけでなく、化学(Computational and Informational Chemistry)や生物学(Computational Biology, Bioinformatics)の中に、重要な位 置をしめるようになっている。

 20世紀は、2つの世界大戦の時期を経験して科学、技術が大発展した時代であっ た。21世紀においてもその発展はますます加速されるだろう。しかし、科学や技術 の進歩がそのまま人類の生活を良くし、幸せにすることにはならない。進歩がもたら す負の要素も少なくない。環境問題はその典型である。そこで浮上してきたのが「科 学、技術を効果的に活用するための科学と技術」である。情報計算技法は後者にも深 く関係している。

当然のことであるが、環境問題で大切なのは生物学の視点である。生命の存在を問題 にしなければ環境問題はありえないからである。それゆえ、情報計算技法と生物学の 知識は、あらゆる科学、技術の研究に関っている者が身に着けなければならない素養 となっている。実例として、講演者が最近関心をもっている核内受容体と生活習慣病 の研究構想を紹介する。

世話人:田中成典 (tanaka2@kobe-u.ac.jp)

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