第106回自然環境論セミナー

健康増進を目指して−環境と遺伝:アレルギー疾患をモデルに−

白川 太郎 教授
京都大学大学院医学研究科(健康増進行動学)

日時:2004年8月11日(水)午後3時30分−5時00分
場所:発達科学部A棟2階大会議室

概要

1998年の厚生省特別研究班の報告によれば国民の38%が何らかのアレルギー疾 患を罹患した経験を有すると報告されており、第二次世界大戦前後では約数%と考え られているので大幅な増加をきたしている。また全世界で統一された質問票を使用し て行うISAAC調査でも小児アレルギー疾患は先進諸国で増加していることが報告され ている。

アレルギー疾患は遺伝的な素因の上に環境要因、ライフスタイル要因が複雑に絡み あって発症すると考えられており、遺伝子変異の急激な増加はありえないとすれば問 題は環境、ライフスタイル要因の変化によるものと考えざるをえない。これらの戦後 の変化がおそらく遺伝子相互作用や発現量、機能を変化させそのために急激な罹患率 の増加を招いたと考えられる。それでは一体環境、ライフスタイル要因の何がこのよ うな急激な増加をもたらしたのであろうか?いくつかの仮説が提唱されている。 (1)感染症の減少、(2)食事の変化、(3)住環境の差、(4)抗原量そのもの の増加、(5)大気汚染、(6)ストレスの増加、などが主たる仮説である。そのど れもがかなり説得力のある証拠があるが、それに対する反論も数多い。全ての疫学調 査が指示する絶対的な仮説はまだ得られていないというのが現状であろう。むしろこ れらの因子による複合的な現象が同時に進行するためであると考えるほうが合理的な ようである。

本講演では、これらの仮説の主たるポイントを紹介するとともに、遺伝子と環境との 絡みをどのように捉えて研究を行なうべきか?どのように予防していくべきなのか、 私なりの考えを述べて皆さんの議論のたたき台となることを期待したい。

世話人:  田中 成典 (tanaka2@kobe-u.ac.jp)

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